墜落制止用器具って?
消防活動において、人命救助のために危険な場所に入ることもあります。そこで、救助する隊員が墜落しないように処置を行います。そこで使われるのが墜落用制止器具です。墜落用制止器具について法改正が行われたので紹介します。
根拠
2022年の1月2日から新しい墜落制止用器具の使用が義務付けられました。以下の法律でしっかりと定められています。高所で作業する可能性がある消防隊員にとって、関係のないものではありません。墜落制止用器具を使用する場所というのは、高さ2m以上の箇所で作業床を設けることが困難なときです。
- 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成30年6月8日政令184号)
- 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(平成30年6月19日厚生労働省第75号)
- 安全衛生特別教育規程等一部を改正する告示
労働安全衛生法とは
上記の法律で改正されたのは、労働安全衛生・・・という名前の法律です。その法律は、職場における労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成が目的です。
改正された目的
足場のない高い場所で作業を行う作業者が使用する安全帯の安全性の向上と適切な使用を図るためです。高所で作業する人による事故を少なくすることが目的でしょう。
改正されたところ
名称の変更 「安全帯」→「墜落制止用器具」
高所作業をする人が装着する装備について、以前は「同ベルト型(一本つり)」、「胴ベルト型(U字つり)」、「ハーネス型(一本つり)」の3つを「安全帯」と定義していましたが、「胴ベルト型(一本つり)」、「ハーネス型(一本つり)」の2つを「墜落制止用器具」を定義するようになりました。「胴ベルト型(U字つり)」は墜落を防止する機能がないので、「墜落制止用器具」には認めれません。
原則、ハーネス型(一本つり)を使用
「墜落制止用器具」は「胴ベルト型(一本つり)」、「ハーネス型(一本つり)」があるといいましたが、原則「ハーネス型(一本つり)」を使用してください、以下に墜落制止用器具の要件も示すのでそれも考慮する必要があります。
墜落制止用器具の要件①高さ6.75m以上では「ハーネス型(一本つり)」
先ほど原則、「ハーネス型(一本つり)」を使用してくださいと言いました。ここで原則と言ったのは地面からの高さが6.75m以下の場所では「胴ベルト型(一本つり)」が使用できるからです。なぜ、田高さ6.75m以下では「胴ベルト型(一本つり)」が使用できるかというと、「ハーネス型(一本つり)」で万が一墜落した場合に、作業者が地面についてしまう可能性があるからです。
墜落制止用器具の要件②墜落制止用器具の使用荷重を考える
いろいろな資機材に適切な使用荷重があるように墜落制止用器具にも使用できる重量に制限があります。ここで、気を付けなければならないのは、体重ではなく重量と書かれている点です。装着する人の体重と装備品の合計を言っているのです。
墜落制止用器具の要件③適切なショックアブソーバの種別を選択
ショックアブソーバとは、墜落を制止するときに生ずる衝撃(衝撃荷重)を緩和するための器具です。ハーネスのフォールアレスト用コネクタに接続して使用します。ショックアブソーバには2種類あります。
- 第一種ショックアブソーバ:自由落下距離1.8mで墜落したときの衝撃荷重が4.0kN以下であるもの
- 第二種ショックアブソーバ:自由落下距離4.0mで墜落したときの衝撃荷重が6.0kN以下であるもの
腰より高い位置にフックをかける場合は第一種を、足元にかける場合は第二種(腰より高い位置にかける場合も可)を選定しましょう。
選択に迷ったら、第二種ショックアブソーバを選択すればよいでしょう。
「安全衛生特別教育」
墜落制止用器具を使用する人は、それに関する特別教育を受けなけければなりません。教育の内容は以下のとおりです。
学科科目 | 範囲 | 時間 |
Ⅰ 作業に関する知識 | ①作業に用いる設備の種類、構造及び取扱い方法 ②作業に用いる設備の点検及び整備の方法 ③作業の方法 | 1時間 |
Ⅱ 墜落制止用器具(フルハーネス型のものに限る。以下同じ | ①墜落制止用器具のフルハーネス及びランヤード種類及び構造 | 2時間 |
Ⅲ 労働災害の防止に関する知識 | ①墜落による労働災害の防止のための措置 ②落下物による危険防止のための措置 ③感電防止のための措置 ④保護防の使用方法及び保守点検の方法 ⑤事故発生後の措置 ⑥その他作業に係る災害及びその防止方法 | 1時間 |
Ⅳ 関係法令 | 安衛法、安衛令及び安衛側中の関係条項 | 0.5時間 |
実技科目 | 範囲 | 時間 |
V 墜落制止用器具の使用方法等 | ①墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法 ②墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への取付け方法 ③墜落による労働災害防止のための措置 ④墜落制止用器具の点検及び整備の方法 | 1.5時間 |
この教育訓練は以下の条件を満たしている人は省略することができます。
- 適応日時点おいて高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難な場所でフルハーネス型を用いて行う作業に6月以上従事した経験を有する者は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅴを省略できる。
- 高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難な場所で胴ベルト型を用いて行う作業に6月以上従事した経験を有する者は、Ⅰを省略できる。
- ロープ高所作業特別教育受講者又は足場の組立て等特別教育受講者はⅢを省略できる。
ここで、1の条件にあてはまる消防はなく、2の条件に関しては救助隊が安全帯を使用しているところも多いと思いますので該当する人が多いのではないかと思います。
3の条件ですが、消防はロープ高所作業特別教育を受けている人がほとんどではないかと思います。そんなの受けたことないよと思う人が多いと思いますが、簡単に説明します。平成28年に「ロープ高所作業」についての法律が改正され、ロープ高所作業における危険の防止のための規定が制定されると同時にロープ高所作業をするときは安全のための特別教育をする必要になりました。しかし、平成28年消防消第135号に次のとおり書かれています。
消防職員については、消防活動を行うための十分な知識及び技能を身につけるために、消防学校や職場教育等において、「消防学校の教育訓練の基準」(平成13年消防長告示第3号)及び「『消防学校の教育訓練の基準』の教育指標」(平成15年11月19日付け消防消第220号)等に基づき、当該業務に関し、座学と実技の両面から教育訓練を受けているものと考えられます。
各消防本部においては、これらを踏まえ、労働安全衛生法上の特別教育の省略の適否について適切に判断されるようお願いします。
平成28年7月1日消防消第135号
上記の言葉から、ロープ高所作業特別教育を受けていると判断した消防本部がほとんどであったと思います。つまり、消防職員は3の条件を満たしていることになります。
以上から、多くの消防職員は墜落制止用器具を使用し作業する際に必要な特別教育に関しては、Ⅱ、Ⅳ、Ⅴの3項目を受ければよいということになります。(表中の赤字)
まとめ
今回は墜落制止用器具の法令改正にについて説明しました。最後に変わった点を挙げておきます。
- 名称の変更・・・「安全帯」から「墜落制止用器具」に
- ハーネス型(一本つり)を使用。
- 特別教育が必要
- 学科科目Ⅱ 墜落制止用器具(フルハーネス型のものに限る。以下同じ
- 学科科目Ⅳ 関係法令
- 実技科目V 墜落制止用器具の使用方法等
いろいろと説明しましたが、簡単にまとめると「高いところで作業するときは、フルハーネスを着用しましょう」ということです。
法改正されるのは、私たちの安全を守るためです。災害現場や訓練で危険な場所に入るときは、万全な注意を払って自分自身で自分の安全を守れるように意識することがなによりも大切です。